書けるかな

書けるかな


「はっ…ふ…はぁっ…」

息の上がった途切れ途切れの声が聞こえる。
それは静かな部屋に微かに響いて、だが顔の真下にある毛足の短い上質な絨毯にすぐに吸いこまれていく。
のび太は、その苦痛なだけでは無い、甘さの滲む声が自分のものだという事をどこか遠くに感じていた。


今日はとても良い天気だ。
秋特有の澄んだ青空が、軽く30畳以上はある部屋の奥一面を占める窓の向こうに広がっている。
照明が点いていなくても室内は自然光で充分に明るく照らされ、白を基調としたこの広い部屋をより一層潔癖に見せていた。
高台に建つこの家からは、遠くに海も見渡せる。白くさざ波が立っているから、風が強いのだろう。
遠くを見なくても、窓のすぐ横にある常緑樹の立ち木がその枝を撓らせている様子でかなり風が強い事が分かる。
瀟洒な洋館に似合う、30cm四方の細く白い格子で飾られた窓は、だがその美しい姿に似合わず機能的なぶ厚い硝子で出来ており、内外一切の音を遮断していた。

まるで大きなスクリーンで音の無い映像を観ているようだ。
余計に、通常の世界から切り離されているような錯覚に陥る。

いや、錯覚では無い。
確かに今の自分は、普通とは言い難い状況にある。

(くっそぉ〜…なんで…こんな事に…っ)


ついこの間迄、まったくもって平凡な生活を送っていたのだ。
老舗高級宝石店に勤めるのび太は、稼ぎ時で有る秋冬シーズンの今季目玉として日本であまり発表しないデザイナーの商品の独占販売に漕ぎ着け、いつになく気合いの入った、充実した日々を過ごしていた。

その日は、商品が初めて店に並ぶという事もあり、普段は出ない店頭販売にも加わった。
間接照明とショーケース内の光が落ち着いた雰囲気を作り出す店内で、ひと際客の目を惹くようディスプレイされたスペースで柔らかなスポットライトを浴びてキラキラと輝く宝石達は、まるで自分の努力の結晶が輝いているようにも見える。

初めてショーケースから出して見せてくれるように言われた時には、マニュアルのお愛想ではなく思わず自然に笑みが零れた。
宝石達が一番美しく見えるように客の前に置く。
だがいつまでも差し出された宝石を手に取らない客を不思議に思い、浮き足だっていたためよく見ていなかった客の顔を改めてちゃんと見たのび太は、じっと自分を見つめる切れ長の瞳にぶつかった。

不躾とも言える程の視線をいぶかる事も立場も忘れ、のび太も思わず相手を凝視してしまう。
宝石店という場所柄、セレブと呼ばれる人々を何度も相手にしてきたが、今目の前にいる男は存在そのものが異質だった。

(宝石のような男だ…)

スラリとした長身を包む高級ウールスーツは質素とも言える程で全く華美では無いのに、滲み出る雰囲気が決して彼を埋没させない。
お仕着せではない黒のスーツに身を包み、磨き上げた革靴を履いた175センチののび太よりやや高い位置から見下ろしてくる漆黒の瞳の奥は、一度覗き込んだら吸い込まれ、二度と這い上がれない深い闇を思わせる。
感情を覗かせない一種異様な獰猛さを孕んだ瞳は、だが次の瞬間穏やかな光を纏った。

「これを」

のび太が手にするビロードで覆われた宝石盆を、長く美しい指がするりと撫でた。
その時、白手袋を填めたのび太の指先も撫でたような気がしたが、単に当たっただけだろう。

「全部」

静かだがよく通る低い声がのび太の鼓膜から沁み入り、停止中だった思考がようやく動きだす。
はっとして、慌てて答える。

「あ…はい、ありがとうございます」

全部合わせるとサラリーマン5年目ののび太の年収が軽くふっとぶ程の金額になるが、この客だと高い気がしない。
宝石は明日、家まで直接届けるように言い置いて客は帰って行った。

つくづく別世界で働いていると思いながら手続きを済ませる。
のび太が届けるように念を押されたのは気になるが、こういう事は実は珍しくない。
毛色の違う人間が物珍しいのだろう。のび太を気に入っている客はなにげに多い。

この宝石のデザイナー骨川にしてもそうだ。

(面白そうだから〜、いいよ〜、作っても)

変わり者で有名な彼だが、やはり変わり者だった。
駄目元で頼みに行った最初の日はまったく取り合ってもらえなかったのだが、負けじと気合いを入れ直した2回目の訪問であっさり契約に応じてくれた。
いまいち会話は噛み合わなかったが、契約書さえ噛み合えば良いのだ。
気が変わらないうちにとその日に契約を済ませ、そして生まれた宝石達は今自分の働く店でキラキラと輝いている。

そしてさらに現在、その宝石達はのび太の手に持つアタッシュケースの中に鎮座ましまし、高台の出木杉邸の前に辿り着いた。
白塗りの壁の瀟洒な洋館が昼の太陽の光を浴びて眩しく輝いている。

(…でかっ…)

6畳1間の典型的な自分の部屋を思い出し、アパートが何個入るかという虚しい思考を断ち切って呼び鈴を押す。
ばあやでも居そうな雰囲気だったが、予想に反して本人が出て来た。

「やあ、いらっしゃい」

別に遊びに来たわけでは無いのだが、ニコニコとしている相手に。

ふぅと思考に没頭しかけたその時、まるでのび太の意識を取り戻すかのように衣擦れの音が聞こえた。
つられて目をやれば、形の良い長い足が優雅に組み替えられたところだった。

今の自分の格好は、いくら晴天とはいえこの気候には寒いはずだが、室温管理も行き届いたこの部屋では寒さなど感じない。



END



またしても変態プレイ。
なんかまた拘束系。趣味かな?(#^3^#)
のび太くんの腰に付いてるワイヤーを支えるもの、最初単なる鉄輪だったのですが、
それだと(出木杉の)自由が利かないな〜と思って巻き取り式に。
しかもボタン操作自動巻機能付き♥
あ〜考えるの楽しかった♥
見えないけど、反対側にも同じ物が。
そしてまた変態話を制作中☆


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