『薄闇』


いつだって向こうを見通したいのに、だけどそれは叶わない。
薄闇の向こう、ぼんやりと透けて見えるのは彼だと知っていた。いつだって彼は優しい微笑を浮かべて僕を見ているから。
……だからこそ視界はいつもぼやけると彼は知っているんだろうか。濁った視界で彼の笑顔はいつもぼやけて見えるなんて。

ああでも。……仕向けたのは彼だったっけ。

「……あーあ」

返却された答案も案の定の悪さで溜息をつくしかない。
図体ばかりでかくなったって結局小さかったあの頃となんら変わりもないのに、なぜ心ばかりこんなにも肥大するんだろう。
クラスメートに点数を尋ねられたからあいまいに笑ってみせる。だけど目線は……。

いつだって彼は僕を見つめている。

なにも知らないクラスメートはそのままの意味でしか捉えないある種の目線。それでもって僕を見つめている。穏やかな表情を張り付けたまま、いつも。

「出木杉は相変わらず?」

穏やかな視線を崩すのは欲望に崩れるときだけ。それは知ったんじゃなく……知らされたんだ。
へらへらと不出来な生徒を装って彼の机に近寄って、気づけばそう話しかけていた。
以前通りに。何も知らないまま子供の時のように会話するには難しい。だけど強要するのは目の前にいる完璧な同級生だった。…だから。
あの頃の続きのように僕は僕のふりをし続けてやるから。
彼の僕に向ける笑みはいつだって誰に向けるものよりも柔らかい。何も含んでいないように見える。事実…そう自分も思いこんできた。

「出木杉は本当に頭がいいんだね、羨ましい」
「ありがとう。ああ、そうだ。今日も家に来る?」

わからない所があるなら教えてあげると柔らかに笑ってみせる。唇の端が少しだけその表情を裏切ってるなんてわざとなのかそうじゃないのか…どうだっていいことなのに。
彼の優しい笑みは僕を暗い視界の中へと放り込む。

「歓迎するから、是非おいでよ」

にっこり。擬音とかそういうので表せばそんな感じになるんだろうな、僕も笑みを返す。だけどねお互い眼なんか笑ってなくて。

「出木杉の教え方って丁寧だから本当助かる」

前みたいに笑って何も知らないままいられたらそれで良かった。本当は何も知りたくなかった、今になって思う。
柔らかい笑みがどんな感情を隠したものか身をもって知った今だからそう思ってしまうけど、時間なんて戻らない。それに戻したいとも思わない。
前の授業のノートを鞄にしまうその指が、僕に何を強要したかなんて誰も知らないことだ。
何も知らなかった僕に全てを教え込んだ彼は周囲にそれと悟らせるようなへまはしない。いつからか僕も戸惑いも忘れ彼に引きずられるようになった。

もう子供じゃないんだ。だけどまっとうに育ったかなんて聞かれたら間違いなく答えはノーだと思う。

「楽しみにしてるよ。じゃあ放課後に。…一緒に帰ろうね」


――――彼の再び浮かべた優しい笑みは僕を暗い視界の中へと放り込む。



fin

加納 いつき様(銀狼詩人


†††††  作者様よりコメント  †††††
逃避雑多のNo.2のやさぐれを見て書きました。一応設定的にNo.1を下敷きにしてみたんですが…。
すごい遅くなりましたけど28000hitの貢ぎ物でございます〜
やさぐれというか「いつも笑顔で探り合い、すさみのび太と腹黒出木杉、高校生編」みたいな感じでしょうか??
二人称とか一人称とか散々迷いましてとりあえず「僕」にしてみたんですが別人ですね…。
甘いの書こうと思ったんですが無理でした。自分、どうやら甘々とかには縁ないみたいで;



28000キリ番踏み人、加納さまからの頂きものです♥
ぎゃっぼー!!!スパイスィ〜ラ〜ヴッッ!!!♥
私の逃避雑多を御覧になって書いてくださったなんて、ありがとうございます〜!
のび太のすさみっぷり、良いですね〜!一筋縄ではいかないような。
そしてもちろん出木杉の腹黒さったらもうスゴイっす〜☆かなりツボ!
さらに妄想も〜っくも〜っくもっくもく(笑)!
素敵です。こういう関係も大好きです♥(#^3^#)/
短いのに、なんだかとっても濃密な後味。
加納さま、素敵な出木のび小説をありがとうございました!(#^v^#)/



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