君と僕の関係 |
2005/05/10〜2005/09/19掲載 |
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終業を告げるチャイムに起こされたのび太はぱしぱしと瞬きをすると、一度大きく伸びをして立ち上がる。 帰り支度を整えて、敷地の南側の外れにある温室へと足を向けた。 少し立て付けの悪い扉を潜ると、やや湿度の高い南国のような薫りに包まれる。 手入れされた花々の間をすり抜けて道具置き場に行き、昨日放ったままの軍手を嵌めると、作業を開始した。 本来生物の教師がここの管理者だが、のび太が来るようになってからは殆ど来ない。 昼寝場所を提供してもらう代わりの労働奉仕だ。 昨日の続きの雑草取りをしていると、扉の開く音がする。 見なくても分かる、もう1人のここの常連だ。 案の定、ジャスミンの向こうから現れた長身は幼馴染みの出木杉英才だ。 放り投げてあるのび太の鞄をベンチの背もたれにきちんと立て掛けて、その横に座る。 「チューリップ、咲いたね」 のび太が返事をしなくても、出木杉は気にしない。 出木杉は温室に用があるわけではなく、のび太の後を付いて来ているだけだ。 小さな頃からのび太の後をくっついて離れない。 出木杉は昔から勉強が出来て運動神経も良く、しょっちゅう回りの友達に遊びに誘われていた。 けれどなぜかスポーツも勉強もまるで駄目な自分と一緒に遊びたがり、男2人でおままごとをしたり裏山で昼寝をしたりした。 一緒にいて何が面白いのか、理解できない。 誰かと遊ぶと自分のどんくささが目立って、馬鹿にされるのが嫌でのび太は一人で遊ぶのを好んだが、 出木杉が相手だと不思議と自分のペースで過ごせた。 それに小さな頃の出木杉はのび太より小さく、そこらの女の子より可愛かったため、何かにつけて頼られるのは素直に誇らしく思えた。 高校生になった今は唯一勝っていた背丈も追い越され、間違っても女には見えない男前に成長してしまったがその関係は変わらない。 出木杉が自分の後を追って来るのは当たり前で、だからのび太はいちいち振り返ったりしない。 しばらく雑草取りに没頭していたら、結構時間が経っていたようだ。 一度立ち上がって、固まった腰を伸ばす。 何気なく出木杉の方を見ると、大人しく本でも読んでいるのかと思ったら自分をじっと見詰める瞳にぶつかった。 両膝に肘を置いて組んだ手に顎を乗せ、とても静かだが穏やかとは言い難い目を向けてくる。 内心ギクリとする。 最近、出木杉の視線に今迄と違う何かを感じる。 出木杉がそんな目で自分を見るようになったのは、あの時からだ。 新しく赴任してきた保健医が大学を出たてのまだ若い男の先生で、適当な理由でも気軽にベッドを使わせてくれたため入り浸っていた。 その日も保健室のベッドで寝ていたが、すぐ頭上で何か言い争う声がして、目が覚めるとなぜか出木杉の胸に抱え込まれていた。 何が何やら分からないまま手を引かれて帰る途中、ずっと無言だった出木杉が「もう保健室に行っちゃ駄目だ」と言い、 理由を聞いても何も言わないし、珍しく頑として譲らない。 結局よく分からなかったが、大きな背中は有無を言わせぬ雰囲気が有り、温室という新しい昼寝場所を見つけたのもあって素直に従った。 それ以来、ふとした拍子に不穏な瞳に出会す。 不自然にならないように目を反らし、ギクシャクと腰に当てた手を降ろしながらまた花壇へと向き直るが、 視線を感じる項の辺りがちりちりとする。 ざらりとした感触と共に、服の下まで覗かれているような錯覚を覚える。 (なんで僕がこんな気にしなくちゃいけないんだよ!) 自然な振りを装うと背中まで凝ってくる。 もう殆ど雑草が残っていない土を意味無くいじり、八つ当たり気味に必要以上に小さな芽まで抜いていたら、 いつの間にか目の前の花壇はとても美しくなっていた。 無意識に残した雑草の桃色の花だけが可愛らしく一輪、咲いている。 「…」 今日は出木杉の誕生日だ。 特に何かしてやる気は無いが、全く何もしないと拗ねる可能性がある。 只でさえデカい図体が鬱陶しいのに、拗ねられると面倒な事この上ない。 「出木杉」 妙な空気を撥ね除けるように手袋を放り投げ、何でも無いように我ながらつっけんどんに手折った花を差出す。 「これやる」 すると先程までの妙な目付きは消えて、出木杉は心底嬉しそうな顔をした。 こういう表情は昔から変わらないもので、安心する。 さっきみたいな目付きで見るなよな…と考えていたら、 「のび太くん」 「ひわっ」 突然抱き上げられて、動揺のあまり素っ頓狂な声が出た。 「のび太くんアルバムがこれでいっぱいになったよ」 「そ、そうか…」 小さな頃から、出木杉はのび太のあげたものは何でもそのアルバムにしまっていた。 ポケットタイプのアルバムは、ちょっとした小物が仕舞えるようになっている。普通にプレゼントした文房具などはもちろん、 何気なく取ったその辺の葉っぱや飴の袋まで大事に仕舞っているのを見た時は正直ちょっと引いた。 「あのね、僕、アルバムがいっぱいになったら決めてた事があるんだ」 「な…なんだよ…」 「僕ね、もうのび太くんよりずっと大きい」 「…」 「力だってずっと強いよ」 「何が言いたいんだよ」 喧嘩を売りたいのだろうかこの男は。 だがのび太の心を読んだように、 「違うよ、そうじゃなくて、僕はもう君に守られる子供じゃないんだって言いたいんだ」 別に守っているつもりは無かったが、出木杉はそう感じていたのだろうか。 「あのね、僕が君と一緒にいるのは別に小さい頃から一緒だからというつもりは全然なくて」 「?」 出木杉が何を言いたいのか分からず首を捻るのび太に、 「君ももう子供じゃなくて…だから…もう少し自分の魅力を分かって欲しいんだけど…」 のび太を抱える腕にさらに力を込めながら、ぽそぽそと呟く。 「なんだよはっきり言えよ」 出木杉に抱っこされているという状況も忘れ、居丈高に告げるのび太をなんとも言えない表情で見上げると、 そのまま首を伸ばしてきて、気付いたら唇にやわらかな感触が当たっていた。 (…今の…何…?) あまりの衝撃に頭の中が真っ白になり、何も言えないのび太を照れたように上目遣いに見上げてくる。 「好き」 固まっていたのび太をさらに粉砕するような告白をすると、抵抗の無い事に調子づいたのか、シャツ越しに胸に口付けられた。 「ビ…ビンゴ…うっ」 「馬鹿ったれ!!!」 口付けられた瞬間身体に走った電気のような感覚にやっと我に返ったのび太は出木杉の頭に肘鉄を食らわせると、 暴れて飛び下りて罵声を浴びせ、ついでに蹴りも入れた。 顔の火照りをごまかすように、顔に手をやる。 脛を押さえながらもなぜか出木杉は嬉しそうだ。 溜まっていた物を吐き出せたような吹っ切れたような顔をしている。 これからは、もう今迄と同じ目で見れないかもしれない。同じ関係ではいられないかもしれない。 でもそれは決して哀しむものじゃなく、ワクワクするような、不思議な心地だった。 END |
出木杉お誕生日絵でございます〜。(#^3^#) ヘタレ攻め×俺様受けを目指したSSのつもりでしたが、 読み返してみればそうでも無いような…。 でものび太くんが俺様である事は間違いないので良しとします。←出木杉が主役という事実はあっさり脳内から抜けている模様 飾り過ぎ過去最長記録余裕で更新。のわ〜…。ギャギャ!!(もんどり) |
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