大好きなあのヒトの為に、密約を交わそう。 |
フォックスフェイスとカモミール. 2003.2.7 by haruru |
「―――――あら、またのび太さんのこと見てるの?」 放課後の教室。背中から掛けられた声は小さな笑いを含んでいて。 でも、不快感は感じない。 軽やかな、鈴を転がしたような声。それに、 「そ。‘また’見てるんです。飽きもせず」 窓枠に片手を着き顎を支えるようにして、視線は下校中の人波へと向けたまま、声の主を振り返ること無く、そう答える。 人波のうちの幾人かは、歩きながら、ふと何かを感じ取ったようにして此方を見上げ、何がしかの声を上げているのが見て取れるけれども。 目的とする人物は、注がれる視線は疎か直ぐ側で騒いでいる女生徒達の存在も意に介した様子も無く、真っ直ぐに校門へと向かっている。 |
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低くも高くも無い身長。 それに見合った身体つき。 髪型も此れと云った特徴は無く。 唯一、トレードマークと云える眼鏡も、後姿では、その一部が僅かに見え隠れしている程度。 多分、彼を見た・彼を知る殆どの人間が、取り立てて特徴の無い、極々普通の人物だと評すると思うし、 自分自身も、こうして同じ制服を身に着けた同じ様な背格好の人間が大勢居る中、見分けが付くのは、幼い頃からのそれなりの付き合いが有る所為だと思っていた。 けれども、実際は――――――それだけが理由では無かったらしく。 今では、校内に限らず、例えば恐ろしく人の多い街中の雑踏に居たとしても、必ず、彼を見つけ出せると云う自信さえ有って。 そう思えることが可笑しくて、口許に微笑(えみ)を上らせると、 「やらしー笑い」 隣に立った彼女がそれに気付いて、からかう様に云う。 そして、 「私、出木杉さんのこと誤解してたわ。小学生の頃から何でもスマートに熟していたヒトだったから、てっきりレンアイもそうだと思っていたんだけど。唯々こうして見ているだけなんてね」 同じ様に人並みへと目を向け、視線の先を追って、 「案外と純情でいじらしい性格をしてるんです。中々表に出ない部分だし、気付いて貰えないだけで」 「って嘘ばっかり。ただ単に今迄本気で好きになった人が居なかっただけでしょう?それも自分から」 7年にも及ぶ付き合いと、また女性特有のと云うよりは、彼女の場合、その生来の勘の良さから、そんな風に云って寄越して。 実際、この近頃自覚した感情についても、彼女にはひと言も云ってはいない。改めて訊かれた訳でも無い。 けれども、彼女はいつの間にかそうと知っていて。 元々特別隠すようなことだとも思っていなかったし、気の置けない間柄、タイミングが合えば、こうして普通の世間話と同じに自然と話題にするようになっていて。 「何、もっと僕らしく早く行動に出て欲しいとか?」 そう訊ねると。 「いいえ。だって、別に今だって出木杉さんらしいと云えばらしい行動をしているし」 「と云うと?」 「初恋だからとか同性だからとか、または今更な幼馴染みだからと云う点で悩んだり躊躇している訳では全然無くて、現状を冷静に分析しながら楽しんでいる。余裕タップリなところは常と全く変わらないでしょ」 「じゃあ何が?」 少しの不満と少しの嫌味。それを柔らかな雰囲気を崩さぬまま、サラリとした口調で云ってのけて。 嗾けるようでいてそうで無い言に重ねて訊くと、 「私、出木杉さんとのお付き合いも長いけれど、のび太さんとはそれ以上長いのよ。彼がどんな人かは良く知っているし、ほぼ同期間分の付き合いのある武さんやスネ夫さんは勿論のこと、当人であるのび太さんよりも、きっと、その実際を知っていると思うの」 物事に対する意志が弱くて、子供っぽくて、甘えたがり。 それが時にズルイ所として現れたりもするけれど、実際は、酷く優しくて良心的で感受性の鋭いひと。 そして、普段は、その大きく表に出ている性格や愛用している顔半分を隠してしまう大振りの眼鏡の所為で気付く人も殆ど居ないし、また、自身が指摘するように、恐らくは彼本人も知らない・気付いてはいないコトなのだろうけど、 その本質を表すように、 実は、とても綺麗で可愛い顔をしている、と云うこと。顔だけでなく、身体も、勿論。 全部、綺麗で可愛い、人。 「其処に惹かれていたことに漸く気付いたのだと思うのだけれど」 出木杉さんってば遅過ぎ。慧眼も好みも私とそう変わらない筈なのに、と云って彼女が微笑(わら)う。そして、 「で、結局、しずかちゃんが云いたいことは?」 ―――――――校門の向こうに彼の姿が消えて。 腕を置いていた窓枠に今度は背を凭せ掛けて。此処に来て初めて合わせた彼女の顔を見ながら訊ねた再度の問いに、 「この恋を出木杉さんがどう楽しみ・行動するのかは勝手だけれど、あんまりゆっくりし過ぎて偶然にも本当ののび太さんに気付いた他の誰かに攫われるのは嫌なの。かと云って、本来の出木杉さんのペースでコトを進めてのび太さんが酷く惑わされたり困ったりして振り回されるのも嫌。だから程々に、でも確実にふたりが幸せなコイビトになれるよう努力して貰いたいの」 そう、敢えて困難で厄介な手段を取ることを、事も無げに云う。更に、 「出来ない時・出来なかった時には、それなりのペナルティーも科せられると思っていてね?」 とも。 長年の、どちらかと云うと悪友に近い親友のような関係で、そして、彼女が云った様に色々と似た部分も多いから、その云わんとすることは、凡その見当は付いてはいたのだけれど。 彼のことは好きだけれども、「好き」の形や意味が違うから。 でも、大切な人には違いないから。 協力はしないし邪魔もしない。だけど応援はする。 一応、双方の。 でも、彼寄りの。 それが、彼女の決めた、彼女のスタンス。 ―――――――――しかし、それが必ずしも、全て純粋な想いによるもので無いことは明らかで。面白がっている風情も確りと感じ取れて。 「一応訊いておくけど、ペナルティーの内容は?」 「それは勿論、ドラちゃんの秘密道具をお借りして。―――――――可愛い未来のダンナ様を譲るんですもの。それなりに頑張って貰わないとv」 ニッコリと、想い人を始め数多の男子生徒を魅了して止まない、しかしその真実はかなりの人の悪さを秘めた、花の咲く様な笑顔を見せつつ楽しげに云い放って。 それにワザとらしく溜息を吐きながら、 「御期待・御希望に沿えるよう努力します」 「お願いねv」 差し出された小指に同じ指を絡めて約束をしたのだった。 |
end. 絵/時雨かのこ |
††††† 作者様よりコメント ††††† |
ごめんなさい; かのこさん;;; 長らくお待たせしていたお話がこんな駄作でっ(涙)。 アリスパロを書こうとしたその前日に再読した『LOVELESS』(by高河ゆんさん)の草灯とキオのオトモダチ同士の会話が妙に印象強くて、そんな感じの出木杉と静香ちゃんを書きたいなーと思ってしまい;(<静香ちゃんスキーの本領発揮?) そしたら、のびちゃんは殆ど出ないわ、思ったより静香ちゃんは普通のイイヒトっぽくなってしまったりとか、 出木杉に於いては、最初にワザとデスマス調の喋りにさせたら、それを止めさせるタイミングが掴めず最後までデスマス調のままになってしまったりとか、 何よりも毒のカケラも無い乙女ちっくホモ(←出典:『エデンを遠く離れて』by江上冴子さん。/笑) になってしまったりとか。 その上、この話、推敲の段階で弄り過ぎて段々と収拾がつかなくなり、結局は殆ど推敲前のモノに戻ってしまったと云う時間だけを果てしなく無駄にしたシロモノだったり………(泣)。 つー訳で本当にすみませんっ;;; 2月中旬のお約束だけは絶対に守りたかったので、アリスは未だですが(爆)、送らせて頂きます〜〜〜;;; そして、2つと云う約束も守りたかったので、此れも短いお話ですが、別なものをもう一篇、一緒に送らせて頂きます(<いや、アリスは何だか長く掛かりそうな気がしていて/涙)。 ちなみに、タイトル(<コレもやたらと乙女チックになってしまって非常にこっ恥ずかしいのですが;)の意味は、 それぞれの花言葉(<毎度御馴染み苦肉の策&手抜きワザ/爆)から、 フォックスフェイス=悪友、カモミール=親友の組み合わせで。 本当は、‘密約’と云う花言葉の花を探したのですが見つからなかったコトと、また、何となくフォックスフェイスって名前がどうにもズル賢くて胡散臭い、そして、カモミールの可愛い清楚なイメージが、出木杉&静香ちゃんにはピッタリな気がして(笑)、そんなトコからも付けさせて頂きましたv ではでは、このお話の続きと思われても、また、全くの別物と思われても結構なおまけ話(取り方は読まれた方の御自由に/笑)はこの下に。 どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。 ちょっとだけ私的嗜好の出木杉になっています(笑)。 |
400キリ番踏み人、はるる様からの頂き物1作目でございます♥ わ〜!!出木杉&静香ちゃんって時点ですでになんか空気というか空間が異様☆(笑)←失礼 2人の不思議でビミョ〜な関係がかなりいいカンジでございます♥ でもでもはるるさん、カモミールの可愛い清楚なイメージがピッタリとありますが、 スイマセン、上の2人を見る限りとてもじゃないけど可愛いなんて思えません・・・(TvT)(笑) なのに表面上みょ〜なサワヤカさは感じます(笑)。 はるるさんの出木杉、かなりな攻様っぽいですね!!(#^3^#) でも一番の攻様は静香ちゃんだと思います(キッパリ)。 確かにのび太くん出て来ませんが、こういうなんだか舞台裏みたいなカンジのお話好きです♥ はるる様、素敵な作品をありがとうございました♥(#^v^#) え〜私の勝手なイメージのイラスト付いてますが(笑)、 はるる様ののび太くんは可愛いカンジがしたので、いつもよりプリティ度は高めになっております(#^^#)vv |
もう1つ頂いた作品はコチラから♥ |
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