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ひどくイライラしていた。
最近昼寝をしている最中にちょっかいを出して来る輩が出て来たのだ。

(ああもう面倒くさい…)

昼寝を邪魔される事が何よりも嫌いなのび太は、新しい昼寝場所を求めて建物の外へと足を向けた。
山を切り拓いて建てられた学園は広大な敷地を誇る。手入れされていない自然なままの部分も多く有った。
のび太は余り人が来ないだろう雑木林の方へと進む。
木々の間を縫ってしばらく歩くと、やや開けている空間があった。1本の大木の周りには低木しかなく、陽が差し込んで柔らかそうな草も生えている。寝転がるには丁度良さそうだ。

だが、そこには先客がいた。
木に背を預け、長い足を悠々と伸ばしている。
人の気配に読んでいた本から顔を上げ、のび太だと分かるとふわりと微笑んだ。

「こんにちは」
「…やあ」

昨日といい、やけに縁が有る。
そのまま立ち去るのも微妙に変な気がして、なんだか居たたまれないのも昨日と同じだ。
いつもの自分ならばさっさと別の場所に行くだろうに、物腰の柔らかいこの男が相手だと調子が狂う。
逡巡していると、出木杉の方から声を掛けて来た。

「昼寝場所を探しているの?」

なぜ分かったのだろう。
驚くのび太に構わず、

「君が構わなければここ、どうぞ」

自分の横を示して、また本へと顔を戻す。
断ろうかと思ったが、なんとなく有る縁をここで切りたくは無いと思うくらいには、この男に興味があった。
近付いて、示された横、芝生のような下生えの上に出来るだけ離れて腰を降ろす。そのままごろりと背を向けて横になった。

基本的にのび太は誰かと2人きりになる事は避けるのだが、出木杉に対してそういう警戒心は湧かなかった。
けれど、何か落ち着かない気分にさせられる。

目を閉じてもしばらく背中が気になって眠れなかったが、春の優しい陽だまりの中、頬を撫でるそよ風がとても心地良い。

聴こえてくるのは木々のざわめきや小鳥のさえずり。

ページを捲る微かな音。

校庭に居る大勢の生徒達の声はここまで届かない。


静かで、暖かい。


いつの間にかうとうととしていたのび太は、背後の気配が動いた事に直ぐには気付かなかった。
はっと目を開いた時には、出木杉の顔が間近にあった。

(なっ…)

膝の裏と背中に腕を差し込まれ、抱き上げられる。
まさか、の思いにとっさに広い胸を押しやったがびくともせず、そのまま低木の陰にやや乱暴に押し込まれた。
抗議しようと顔を上げたら、手早く脱いだブレザーをバサリと頭から被せられる。

「ちょっと…!」
「しぃ…静かに」

そしてまた本を読む体勢になった出木杉に、のび太は口を噤んだ。

(なんだよ一体…)

言われるままに静かにしていると、暫くして数人の生徒達が近付いて来る音がする。

いねぇじゃん、ホントに見たのかよ、と口々に言っている声は聞き覚えのあるものだ。
のび太が新たな昼寝場所を探さねばならなくなった原因。
まさか自分を探しているのだろうか。

被されたブレザーの陰から盗み見る。
低木の枝葉の間から、級友達が歩いているのが見えた。
一度こちらをちらりと見たが、もちろんのび太には気付かなかった。

彼等の姿が大分小さくなったところで、無意識に詰めていた息を吐き出した。
でもまたここを通るかもしれない。のび太はそのままでいることにした。
出木杉もそう思っているのだろう、特に声を掛けて来ない。

不思議だ。
さっきまではひどく落ち着かない気分だったのに、今は出木杉が側にいる事に安心している。
掛けられたブレザーが暖かい。顔を埋めると出木杉の香りがした。
そんな訳は無いのに、なんだか庇護されているような気がする。
暖かさと心地良さに、のび太はまたうとうとと微睡んだ。


「…び、野比」

名前を呼ばれて、うっすらと目を開ける。

「さっきは驚かせてごめん、見つからない方が良いかと思ったんだ」
「…うん…」

ありがとう、と続けようとしたのに未だ夢と現を彷徨うのび太はそれ以上言えなかった。
一生懸命開こうと頑張っている瞼もすぐに落ちてしまいそうだ。

まるで子供のような仕種に、出木杉は思わず破顔した。
ところどころ跳ね気味の柔らかそうな髪が形の良い額に掛かっている。
指で払い除けて後ろに梳いてやると、今度こそのび太の瞼が落ちた。
出木杉の口元の笑みが深くなる。

「やっぱり、子犬だ」

見ていて飽きないが、もうじき午後の授業が始まる。起きてくれないと上着も着れない。

「抱いて行って、あげようか」

耳元で囁いたら、期待通り飛び起きてくれた。




「野比、昼休み…っ、どこ居たんだよ…」

屹立が出し入れされる度に、ローションで解された奥がぬちゅりと音を立てる。
荒い息で問う男は、雑木林で見た中の1人だ。
答えるのも面倒で、のび太は自分の前髪を弄んだまま黙っていた。

「野比は昼寝を邪魔されるの嫌いなんだよ、知ってるだろ」

のび太を凭れさせている級友が代わりに答える。

「知ってる…けどさ、女王様人気者なんだもんよ…」

勝手な物言いをする男をのび太は冷たく見据えると、意図的に締め付け、僅かに腰を動かしてやった。
うっと呻いて、あっけなく果てる。

「お前それじゃあ、“女王様”に相手にされないぜ」

ポジション交代した級友が、笑いながらからかう。
既に勃ち上がった自身を取り出し、慣れた動作でローションを塗り込めながら軽く扱いて入口に宛てがった。
寸前まで肉棒を銜えていた蕾はローションと精液でたっぷりと濡れて、然したる抵抗も無くぬぷりと新たな砲身を飲み込む。

再度突き上げられながら、のび太は昼間の事を考えていた。
出木杉はのび太の名前を知っていた。
意外だったが、あまり褒められない風聞と共に聞いた事があるのかもしれない。

こういう遊びをしていると実際目撃もしていながら、自分をあんな風に扱う男は初めてだ。
夢現の中、出木杉が前髪を梳いてくれたような感触があった。とても心地良くて、ずっとあのままで居たかった気もする。

もしかしたら、とても良い関係の友人になれるかもしれない。
けれどそんな風に思った傍から、無意識に目を背けていた考えがじわりと存在を主張する。

抱き上げられた時、全く期待をしてはいなかったと言い切れるか。

これ以上考えたくなくて、のび太は濡れた声を上げ、自分で自分の思考の邪魔をした。



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